Dialnorm(ダイヤルノーム)

私は、普段は音楽の仕事をしております。音楽歴の方がずっと長いし、映画や映像の仕事は、たまたま所属していた学科で必須項目だったという事から、後付けで学んだというのが本当のところだったのですが、やってみると意外と楽しいもんです。


さて、映画と音楽でのマスタリングの大きな違いについて、折角だから記述しておこうと思います。作業として、気をつけなければいけない点として「ダイヤルノーム」のセッティングが深く関連しています。ダイヤルノームとは、映画やDVD、ビデオゲームに採用されているDolby Digital(AC-3)というフォーマット(音楽CDに採用されているPCM音源より若干音圧が低い事が多いですが、ピークレベルは-0.5dBでよいということです)へ対応する為の標準として、ゲインレベルを0dB~-31dBの範囲におさめましょうという基準です。ダイナミックスレンジがそれ以上にある場合は、圧縮し、その基準の範囲内におさめることで、音声が小さすぎて聴こえないという状態にならないようにという事らしいのです。


音楽のマスタリングにおいて、計30dBのダイナミックスレンジなんてのはあまり考えた事がなかったのですが、映画では、例えば主演女優が一人でしゃべっているという場面があります。一人でしゃべっている場面が、恐らく映画の中では一番音声のレベルが小さいのですが、そこが少し小さめの音量で非、理想的な環境でDVDを再生した時に何とか台詞が聴きとれるレベルが、-30dBだということです。基準がしっかりと「-30dB」と決められている事により、そのシーン(セクション)の音声が小さくなりすぎて聴こえにくくなる事を防いでいるようです。では、RMSレベル(平均レベル)を押し上げればそれは防げるのか?


そうしたくなるのはやまやまなのですが、このようなセクションでRMSレベルを押し上すぎると、逆に、不自然に上がったような、音質を損ねる結果になりやすくなります。


録音、ミックスの状態がよければ音質をよくする方向でマスターしやすいのですが、理想通りにプロジェクトのスケジューリング、そして、予算が振り分けられるということがないこともあります。理想通りの録音ではないときは、音質を取りたいのはやまやまですが、上記の標準の範囲内にするというのが、最終関門であるマスタリングエンジニアの責務でもあります。