映画のサウンド

映画のサウンドに関わる機会を何回か頂いた。インディペンデントの映画はどこも予算に余裕がない。関わるたびにベストを尽くそうとは思うが、多くのプロデューサーはサウンドを軽視する傾向にある。映像には結構なお金(高級カメラを使い、コンポジッター、エディターなど多くの人が関わっている)をかけているのに、オーディオの知識に無頓着な為か、ヒドイものだとレコーディングしっぱなしのオーディオを、映像担当者で音声の知識を有していない者が処理して失敗してそのまま映画館で上映されているものまである。


まず、映画のオーディオで大事な順番は、もしプロのサウンドのスーパーバイザーが関わっていれば、


1.ダイアログ
2.音楽
3.サウンドデザイン


の順番になる。勿論、デザインありきのスタイルを用いている映画は沢山あるし、卓越したサウンドデザイナーになろうと思えばそれなりの時間や鍛錬が必要である。3番目にサウンドデザインを持ってきているのはデザイン担当者を軽視しているのではなく、ストーリーや映画における役割としてはやはりダイアログが優先である。


ダイアログの録音状況があまりにも無茶苦茶な映画は沢山ある。アフレコをされていても、ダイアログ専門のスタジオで収録されておらず、映像を役者さんが見ながらその口元のタイミング(映像収録時のタイミング)に合わせて収録されていなかったりする。これでは、そのオーディオを使う事が難しい。折角スタジオの時間を取って録音しているオーディオを使うことができないため、スタジオ費用や、役者さんへ払うギャラが無駄となる。


ダイアログの音の大きさは、その平均の音の大きさが-24LUFSという基準が定められている。これ以下であると台詞が聴こえづらい。大きいと、威圧感のある音に聴こえてしまう。録音の時点でこのレベルと比べ、あまりにも小さい音であればそれをを大きくしたり、大きすぎる音を小さくしたりするとその印象が大きく変わってしまう。従って、録音のエンジニアがレベルやマイク位置、その距離に気をつける事は必須である。小さく録音しすぎると、ノイズがどのくらい入ったのか耳で聴く事ができない。大きく録音されると、その録音が場合に寄っては音割れしてしまう事も考えられる。程度にもよるが、音割れしているものをボリュームを絞ったりコンプレッサーをかけても割れている音は残ってしまう。ノイズ処理でそれを軽減する事は可能だが、元の録音が割れていない事に超した事はない。


録音由来のノイズの処理には、適切なプロセスが必要である。しかし、ノイズ処理のツールのover process(やりすぎ)による失敗例はいくつもある。ノイズ処理に使われているプラグインは、主にiZotope RX Advancedだが、そのマニュアルはユーザーサイドというよりは制作者サイドで書かれており、プロのサウンドエンジニアでもそれを理解していない人が沢山居る。


ダイアログを軽視したが故に出てくる歪みを音楽トラックのボリュームを上げる事によってごまかすことはできないか?という無茶なリクエストをされた事すらある。ダイアログはストーリーを視聴者が理解する一番大事な部分なので、一番手を抜いてはいけないポイントなのである。


1930年代のヒット作の映画を見てみよう。この時代は映像、音声、ともに機材の技術に関しては今のようには発達していなかった時代だ。今の機材を熟練した人が使いこなすそれとは違いがあるにしろ、この時代から、ダイアログははっきりとクリアに聴こえるように録音されていた事が証明できる。